情報誌「医療人」®

今月の医療人紹介

(2013年4月1日掲載)

医療法人 西口ハートクリニック  院長  小野 正美 氏


心療内科・内科・精神科のクリニック院長という枠に留まらず、県民の健康作りや健康維持にも積極的に取り組む

JR福島駅西口パワーシティピボット内に、エーゲ海に面するギリシャの建造物をイメージしたという青と白で統一された外観が目に飛び込む。院内にはアロマの香りが漂い、心地よい音楽と自然豊かな映像が流れ、癒しの空間が広がっている。「建物に入って癒される感覚を作りたかった」と語る、診察前の患者さんにも配慮する小野正美先生に話を伺った。



心療内科とは。気づきにくい病気とどう向き合うか
心療内科とは

 今ではもはや常識かとも思いますが、心と身体は密接に結びついており、ストレスから身体の病気が引き起こされることも多いのです。例えば、治療でなかなか改善しない高血圧の患者さんがいました。話を伺うと、家庭に関するストレスを抱えていました。その問題が解決されたら、徐々に血圧が下がり、最終的には血圧のお薬も減らすことが出来たという方もいます。そもそもは、「精神科的なアプローチを加えて内科の病気を治療しましょう」というのが、心療内科の成り立ちでもあります。

うつ病や不安障害・・・ 心療内科で診る多岐にわたる病気

 精神科・心療内科で扱う病気はとても幅広くて、その種類も多いですね。当院を訪れる方で一番多いのは不安障害とうつ病です。不安障害には、不安を主な症状とする様々な疾患が含まれます。最近テレビでもよく聞くようになったパニック障害も不安障害の1つです。人前で話をしたり行動することに対して強い不安と緊張を感じて支障をきたすようになる社会不安障害や、鍵の掛け忘れなどを何度も確認したり、不潔恐怖から手洗いを繰り返すなどの強迫性障害などもあります。これらは本人が病気だと気づきにくいケースも多く、心療内科を受診するまでに数年掛かることも稀ではありません。うつ病の場合も、原因不明の体調不良が長引いており、内科などを受診し検査を受け「問題ない」と診断されたが、よくよく話を聞いてみるとうつ病だったという方もいらっしゃいます。うつ病は身体疾患との関連も多く、糖尿病の患者さんはうつ病を発症する確率が高いです。また、原発問題で広く知られるようになりましたが、のど仏の辺りに「甲状腺」というホルモンを作る臓器があります。甲状腺ホルモンのバランスが崩れると精神的に不安定になったり、パニックに似たような身体の症状が出て、気分変調をきたしやすくなります。不安障害の患者さんの中には甲状腺疾患を併発している方も少なからず見受けられます。当院では、他にも不眠症や摂食障害、認知症、精神病など幅広い疾患を対象に診療しています。

こんな精神の不調、身体の不調を感じたら受診を
すべてが億劫になって、やる気が起きない

 うつ病の患者さんの中には、集中力が落ちて仕事中にミスを連発したり、もの忘れのような症状を訴えて受診される方がいます。うつ状態になると集中力が低下し、物事を処理するスピードも落ちます。例えば、今朝頼まれた仕事を2つ返事で引き受けておきながら、後で進捗状況を確認されると全く覚えていない。仕事を引き受けた記憶が抜け落ちているんです。これはご年配にみられるもの忘れとは違います。集中力が落ち頭の中が飽和状態で、新しい情報や刺激が脳内を素通りしてしまい、記憶から抜け落ちてしまうのです。本を読んでも目で字面は追えるのですが、内容を理解出来ず何回も同じ所を読み直す。それでも理解できないので、「本を読んでも面白くない」と読まなくなってしまいます。テレビをみても、やはり内容がよく理解できないので見なくなってしまいます。徐々に他人と話すことも億劫になり、楽しんでいた趣味にも興味を示さなくなります。簡単な選択や決断も出来なくなり、意欲や自信を失ってしまいます。こうなると、全てを悪い方に考えてしまい、「出来ない自分」を責めるようになります。これが「うつ状態」です。重症の方の場合、イライラ感や焦りが強くてじっと椅子に座っていることもできず、頭を抱えて歩きまわってしまうような状態になる方もいらっしゃいます。
 症状が酷くなる前に、少しでも気になる場合は、受診して頂きたいですね。気持ちが落ち込んで何もする気になれない、気持ちが焦って不安で居ても立ってもいられない、今まで好きでやっていたことにも興味が持てず楽しめない、親しい友人や家族と話すのも面倒でメールのやりとりもしなくなる、何をするにしても億劫になってしまう・・・こういった症状があれば、1度相談してみてください。

「寝る」「食べる」に支障をきたしたら

 病気の種類に限定せずにいうと、「寝る」「食べる」という2つの基本的欲求が十分に満たされていない場合は調子が崩れやすくなります。規則正しい睡眠と適切な食事というのは健康の基本です。うつ病でも割と初期の頃に「不眠」や「食欲低下」などの症状が出現することが多く、病気のバロメーターとなりえます。「食欲が湧かない」「食べても美味しいと感じない」「味がしない」と感じる方は要注意です。また、睡眠障害には寝つきが悪くなる「入眠障害」や中途覚醒を繰り返す場合、朝早く目が覚める「早朝覚醒」があり、これが2週間以上続く場合は注意して下さい。  女性の場合だと、生理不順や頭痛、腹痛、腰痛、動悸といった症状も多く見られます。内科の先生に診てもらっても異常はなく、それでも症状が続いており、「眠れない」「食欲が落ちている」ということがあれば、心療内科を受診しても良いのかなと思いますね。

十分に時間をとって患者さんの話に耳を傾ける

 初診の際、最低でも30分は時間を取って話を聞いています。長い方だと1時間位掛かりますね。毎回の診察でそこまで時間を取ることは出来ないのですが、最初に出来るだけ話を聞きます。患者さんの中には「病院に来てこんなことを相談していいのかな」と仰る方もいますが、内容など気にせずご相談いただければと思います。

休養・薬・認知行動療法で回復を目指す
認知行動療法とは

 治療で大切なのは、とにかく休養。2番目に薬。3番目は認知行動療法です。重症度にもよりますが、治療の初期段階ではまず「休養」と「薬の内服」です。一定の改善が見られた後に、再発を防ぐために認知行動療法的アプローチを行います。欧米では最近、軽症から中等症のうつ病の患者さんに対しては、最初から抗うつ薬を使うことは控え、認知行動療法と運動療法を組み合わせた治療法が推奨されてきています。
 認知行動療法について簡単に説明すると、「うつ」になる方というのは「うつになりやすい考え方の癖」を持っているのです。例えば、職場で上司に怒鳴られたとします。「すみません」と謝罪しながらも、さほど気にせずにケロッとしている人もいれば、もの凄く落ち込んで後々まで引きずってしまう人もいます。この様に、同じ出来事でも人によって受け止め方が違いますよね。うつ病の患者さんというのは、事柄に対してうつになりやすい反応をしてしまうのです。そうではない反応や対処の仕方を学びましょう、うつ病になりやすい考え方の癖を修正しましょうというのが認知行動療法です。認知というのは、物事を認識して感じとる力のことです。外部からのストレスがあった時に、それをどう認識するか。その後、どう行動するかを修正して行きましょうということです。ただ、口で言うのは簡単ですが「明日から考え方を変えてください」といわれても簡単に変えられるものではないので、時間は掛かります。ですので、私は初期段階では治療に「休養と薬」を用いますが、その後に認知行動療法的アプローチを行っています。具体的には、患者さんに最近あった出来事などを話していただきます。その中で気持ちが落ち込んだという話があればその時のことを詳しく伺い、どう感じたかなど患者さんの気持ちに焦点を当てて話していきます。その中で「こういう風に考えることも出来るよね」と違った視点からのアドバイスを行います。そして、少しずつ思考パターンを修正して、落ち込みにくい状態を作り上げるのです。認知行動療法をきちんと進める時はノートに書き記すこともするため、どうしても時間は掛かりますね。

患者さんと一緒に時間をかけて治療に臨む

 患者さんの中には、通院したらすぐにでも治ると思っていらっしゃる方もいます。しかし、最初の治療から1回目の回復が起こるまでに、大体1〜3か月は時間がかかるといわれています。この状態を安定させるために約半年位かかります。様子をみながらお薬を調整していくので、さらに半年。これはひとつの大雑把な流れですが、みなさんが想像されるよりも長い時間がかかります。自分では「もうすっかり元気になった。元に戻った」という状態まで回復したら、そこから少なくとも1年間は服薬を続けた方が良いですね。半年も経たないうちに自己判断で服薬を止めてしまった患者さんと、1年間しっかり服薬した患者さんでは、その後の再発率は倍も違うというデータもあります。そのため、私は最低1年間は服薬するように伝えています。

自己判断による服薬停止のリスク 再発を防ぎたい

 服薬を止めても「再発した時にまた治療すれば良いじゃないか」と考える方もいるかもしれませんが、再発を繰り返していると治り難くなってしまいます。薬の量も以前の量では効かなくなってしまうケースもあります。結果的に服薬量も治療期間も延びてしまいますので、回復後もしっかり服薬して治療を続けることで再発を予防することが大切です。

早期発見で早期回復

 全ての病気にいえることですが、早期発見・早期治療に勝る対処法はないです。例えば、症状を抱えて2年が過ぎてから受診した患者さんは、治療を受けて回復するまでにはそれと同じ2年掛かるという話があるくらい、治療を受けるまでに要した時間と治癒までの経過には関係があるようなんです。逆に、不安に思ってすぐに来院された患者さんの中には、病院で1度話をしただけですっかり良くなってしまう方もいらっしゃいます。やはり、早めに受診したほうが回復も早いようですね。

悲しいことだけがストレスではない 五感を意識した生活を
ストレスとは生活におけるすべての変化

 「ストレス」と聞くと、多くの方が嫌なこと、悲しいことがストレスだと思いますよね。例えば、親が亡くなり、離婚し、仕事を失い、借金抱え・・・といったことが重なると、うつ病になりそうだというイメージは多いでしょう。確かに病にかかってしまう一因ではありますが、悲しいことだけがうつ病になる原因とは限りません。結婚して、子供が生まれて、家を建てて、職場で昇進したという順風満帆な場合でも、うつ病になる可能性があります。生活における全ての外部刺激や変化が「ストレス」になり得るのです。「最近、嫌なことも全くないのに、どうして調子悪いんだろう」と感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、嬉しいこともストレスになるということを知っていただきたいですね。
 注意して頂きたいのが、自分自身にストレスがかかっているということを感じていない方ですね。「私はストレスなんてない、思い当たる節がない」と思っている方ほど、ストレスを抱えている場合があります。自分は今、ストレスを抱えていると自覚するだけでも気持ちが落ち着きますし、客観的に自分を把握することができます。それと同時に、ストレスを感じていれば「生活のあらゆる場面で無理をしない」といった加減ができます。自分を客観的にみるように心掛けてみてください。

交感神経と副交感神経の関係 深呼吸で副交感神経を刺激

 精神的に調子を崩すと、皆さんずっと考え込んでしまいます。何かを感じ取るということをせず、考えることしかしないんですね。人間には、視る、聴く、嗅ぐ、味わう、触るといういわゆる五感があります。うつ病の患者さんは、ずっと頭の中で考え事をしているので、ご飯を食べていても「美味しい」と感じないし、音楽を聞いても「心地良い」と感じないし、美しい景色を見て「綺麗だな」と感じなくなってしまいます。五感が鈍くなってしまうのです。

 先ほど、ストレスというのは外部刺激や変化のことだとお話しました。暑いか寒いかもストレスですし、ご飯を食べることもストレスの1つです。このストレスがかかったとき、身体の中で様々な反応が起こります。交感神経という神経が活発になってストレスホルモンを出し、身体が反応します。この交感神経は身体が興奮する神経です。それを抑えてくれるのが副交感神経。副交感神経は身体をゆるめて、リラックスさせてくれます。人間は、これら二つの神経がうまくバランスをとることで、ストレスに対処できるように元々作られています。しかし常時強いストレスがかかり、交感神経が常に興奮状態になってしまうと、副交感神経による回復が追いつかなくなります。そうするとバランスを崩して病気になってしまうのです。そのバランスをとるためには、この副交感神経を刺激してあげればいいのです。一般的にリラクセーションといわれる方法です。とても簡単なことでいえば、深呼吸。深呼吸は副交感神経の刺激になるので、とても落ち着くのです。緊張して興奮した状態というのは、交感神経が優位になっているため早くて浅い呼吸になります。それを落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸をすると、副交感神経が刺激され優位になるので「落ち着く」のです。

五感を意識した生活でストレスに強くなる

 先程の五感を刺激するというのは、副交感神経を刺激するということなのです。日頃から「感じること」を意識してほしいと思います。美しい景色を見て綺麗だと感じたり、音楽を聴いて心地良さを感じたり。そのため、精神医療の現場にはこういった五感によるメカニズムを利用した音楽療法や、絵画療法、芸術療法や作業療法などがあります。また、嗅覚を利用したリラクセーションとしてアロマセラピーもありますね。精神科の中には、そういった感覚を刺激することによって心にアプローチするという治療法があります。五感を刺激して感じとることを意識した生活を送ってほしいと思いますね。
 余談ですが、ブルース・リーの有名な言葉に「Don't think, feel! (考えるな。感じろ!)」という言葉があります。天才はとても大切なことを本能で感じ取っていたのですね。

運動、リラクセーション、医療のバランスで健康を維持する
脳の神秘に魅せられて

 学生の頃の精神科実習で非常にこの分野に惹かれました。人間の身体の中で1番謎の臓器といえば脳です。生活習慣、文化や言葉の違いなどがあっても、患者さんに現れる症状は共通しています。江戸時代の人であろうが、現代人であろうが同じ症状として現れるのです。そうすると、これは生物学的な脳のメカニズムの病気としか考えられない。脳は本当に不思議ですよね。 脳細胞が電気信号を出して、それが身体各部所に伝達され、人は体を動かしています。脳細胞が瞬時に系統だった電気信号を発することで、人は話したり考えたり、楽しくなったり悲しくなったり、好きだと思ったり嫌いと思ったりと、そういったことも感じ取っている。非常に複雑なメカニズムで動いているので、今のところ誰もそのメカニズムを解き明かせないでいるのですが…。脳そのものに対する好奇心が、精神科に進んだきっかけでした。

健康のためにできること

 私の考える健康に必要な要素というのは、1つは、自分から積極的に身体を動かして「健康を掴みに行く」運動です。運動はメタボ予防などにももちろん効果がありますが、精神的にも良い効果をもたらしてくれるのです。2つめは、先ほども述べました「健康を守る」リラクセーションですね。この2つをバランス良く取り入れることで、ある程度病気を防ぐことが出来ると考えています。精神疾患も然り、です。これら2つを行ってみても病気になってしまった時には医療が引き受けるという、この3つが上手く絡むことによって、健康が作られ、維持することが出来るだろうと考えました。そこで私はクリニックを開業した後、リラクセーション部門を担当するハートステーション「オアシス」、幅広い目的で使用できるような環境を整えたフィットネスジム「DNA」を立ち上げました。皆さんにはなるべくクリニックに来て頂かなくても良いように、ジムとリラクセーションサロンを上手に活用して、病気を予防していただければと思っています。

※連載・医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。


プロフィール
小野 正美 医学博士 (おの まさみ)

役  職 (2013年4月1日現在)
 医療法人 西口ハートクリニック 院長

専門分野
 心療内科、内科、精神科

経  歴
 福島県立医科大学卒業
 福島県立医科大学神経精神医学講座入局
 大学病院やその関連病院等の勤務を経て
 西口ハートクリニックを開院
資 格 等
 精神保健指定医
 精神神経学会認定専門医・指導医
 日本医師会認定産業医
 総合病院精神医学会認定専門医
 日本老年精神医学会認定指導医

所属学会
 日本精神神経学会
 総合病院精神医学会
 日本老年精神医学会
 日本心身医学会
 日本アロマセラピー学会


医療法人 西口ハートクリニック
〒960−8031 福島市栄町1−1
パワーシティピボット内
TEL:024-573-8651 FAX:024-573-8652
URL: http://www.heart-cl.jp/index.htm

関連施設
ハートステーションオアシス
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フィットネスジムDNA
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TEL:024-534-1414
URL: http://www.dna-gym.jp/index.html
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