(2014年3月1日掲載)
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社会医療法人 福島厚生会 福島第一病院
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心臓血管外科の変遷
先生は長きにわたり心臓血管外科の第一線で活躍されてきましたが、福島県においてどのような手術をされてきたのでしょうか
私が医師になって4年目くらいに福島県立医科大学の教授から、アメリカで心臓外科手術を勉強するよう命じられ、南カリフォルニア大学の胸部心臓血管外科に3年半ほど留学しました。そこで、私は人工心肺を使った術式を学びました。心臓というものは常に動いており、心臓自体に血液が循環しています。また、心臓は血液を体内に循環させている臓器のため、どうしてもこの心臓の動きを止めるわけにはいきません。しかし、人工心肺を使うことで心臓を循環する血液の通り道を体外に作り、心臓自体を止めて手術をする開心術を行うことができるようになりました。当時、福島県立医科大学には人工心肺を使う技術はありませんでしたので、帰国後、この新しい術式を導入するために試行錯誤しました。当然、人工心肺を使用した手術を経験したことのない若いスタッフばかりでしたので、半年間ほど毎日のように動物を使ったシミュレーションを行い、執刀するための準備期間を十分にとりました。心臓の手術はリスクが高いので、チームプレイができなければ、なかなか良い結果につながりません。スタッフの技術やチームの連携など十分なレベルに達したと判断した時に初めて、ずっとお待ちいただいていた患者さんの手術を始めました。
手術においてどのようなことを大切にされていますか
大手術においては、いかに良いチームを作れるかということが大切です。一人が突出していても、良い手術はできません。患者さんにとって良い結果をもたらす手術をするためには、チーム全体のレベルアップを図らなければなりません。スタッフの一人ひとりにチームとしての意識や、チームの輪がなければいけません。人工心肺を用いた手術では、その装置は私の背後にあるため見えません。そうすると、私とスタッフとがお互いに密に声を掛け合っていなければ術中の正しい判断ができません。私が「ちょっとここがおかしいよ」と言えば、どこがおかしくてどう対処すればいいのか判断してくれる信頼のおけるスタッフとの良い関係を保つことができれば、私自身は手術に集中できます。心臓疾患の手術は集中力を保たなければ、細かいことはできませんし、手術成績にも波が出ます。良いチームであれば常に良い結果が出せるのだと思います。私のチームスタッフは、それぞれが厳しい環境にあったにも関わらずよく勉強してくれました。私は良いチームを持ったと思いますし、それが私にとって良い思い出になっています。私が生まれ変わったとしても、もう一度外科医になって心臓外科手術をやりたいと思うくらい素晴らしい経験をさせてもらいました。
アメリカに留学された時には、どのように学ばれたのでしょうか
私がアメリカに留学した際、お世話になったのは外科医のジェローム・ケイという先生でした。彼はアメリカでは5本の指に入る優秀な外科医です。彼の教え子は全国各地におりますので、ケイ先生は日本の医学教育にとても貢献した方だと思いますね。私たちがケイ先生から外科手術を学んだ時は、先生「ケイ教授と南カリフォルニア大学心臓血管外科スタッフ」
心臓疾患の外科手術が発達したのは第二次世界大戦終戦以降であるため、医学の歴史からすると、心臓血管外科領域の学問は歴史が浅いわけです。しかし、この領域は短期間で非常に進歩しました。心臓血管外科の激動期に、アメリカに留学させてもらったのは、私にとってラッキーだったと思っています。
心臓血管外科医として必要なスキルはなんでしょうか
いかに集中力を切らさず持続できるかということでしょうか。今では手術時間はかなり短縮されていますが、私が若い頃は、手術時間というと6時間や8時間と長時間であることが普通でした。長時間でもいかに集中力を持続できるかが重要になります。手術は必ずしもスムーズにいく時ばかりではありません。検査でわからなかった患者さんの状態が術中に発覚し、思いがけないアクシデントが発生することもあります。そんな時、執刀医はパニックに陥るのではなく、どう対応していくか冷静に考えなければなりません。そのためにも、執刀医は集中力を持続させ、良いコンディションを保つことが大切だと思います。海外から日本への新しい技術や医薬品の導入
先生は日本静脈学会の名誉会長でもいらっしゃいますが
「静脈に関する世界トップレベルの国際シンポジウム(フランス)」
先生はあるレーザー装置を用いた血管内レーザー焼灼術の保険適用に尽力されたそうですね
血管内レーザー焼灼術とは、非常に膨れた静脈の中に、細いレーザーカテーテルを挿入し、そのカテーテルの先端から出るレーザー光で血管内の壁を熱で焼き、収縮させることで血管を閉塞させる術式です。この治療法では熱エネルギーを使うため、
「レーザー静脈瘤手術」
「レーザー静脈瘤手術」
当院では小川部長がこの下肢静脈瘤に対するレーザー治療をしており、一週間に6、7名ほど患者さんがいらっしゃいます。このレーザー治療であれば痛みが少なく、日帰りか一泊だけの入院ですみます。当院には他県からも患者さんがお越しになっています。
先生はなぜ西洋ハーブを使ったむくみ改善薬を監修されたのでしょうか、その経緯も教えてください
ヨーロッパには昔からむくみに対する飲み薬があり、それが10年ほど前にドイツのニュルンベルクで行われた静脈学会で紹介されました。私はそれを知って、なぜ日本にはこのような薬がないのだろうと思い、その薬の製造会社に訪ねて話を聞きました。ドイツはフランスと同じようにワインの生産が盛んなので、ブドウ畑がたくさんあります。ブドウ畑を営んでいる方の間に昔からの言い伝えがあり、赤ブドウの葉をお茶代わりに飲んだり、料理の材料として使ったりしているそうです。そのおかげで、ブドウ農家の方は足の不調に悩まされることがないそうです。そこからヒントを得て、赤ブドウの葉を使ったむくみのための薬が現地では販売されていました。当時、私はその製薬会社に日本でも販売してほしいと頼んだのですが、日本に輸出して販売するのは大変難しいということでしたので、私はそれが日本で販売されるのをあきらめていました。しかし、このたび日本でこの赤ブドウの葉を使った薬が発売されるということで私にお話がありましたので、私はアンチスタックスの治験データなどを厳しくチェックし、監修しました。
この「アンチスタックス」は漢方薬のようなものです。この商品はヨーロッパで発売されて15年以上経過し売れ行きも良く、明らかな副作用が無いということが証明されており、日本でも活躍してくれることを期待しています。
先生は海外の技術や医薬品を日本に導入されてきましたが、そのご経験などを踏まえ、若い医師にどのようなことを期待しますか
海外にも、日本で知られていない良いものがたくさんあります。これからの若い医師には海外にも目を向けて、たくさんの刺激を受けてほしいと思います。私は本当に良い先生にめぐり合い、教えていただいたという自負がありますので、私は同じようなことをこれからの若い世代の医師にお返ししなければならないと思っています。
第二のライフワーク 予防医学と抗加齢医学
どのような経緯でこちらの病院に移られたのでしょうか
ここ10年の間に外科手術において低侵襲手術が主流となったため、当院ではカテーテルなどの内科的アプローチでの手術を得意としております。現在、当院の心臓血管外科では小川部長が執刀しており、私は外来で患者さんを診ています。患者さんの中には40年来いらっしゃっている方もおりますので、私も外来に出なければと思っていますね。
先生は日本抗加齢医学会の専門医の資格を取得されたそうですが、現在どのようなことに興味を持ち、力を注いでいますか
「日本抗加齢医学会専門医認定証」
「学会認定医療施設認定証」
日本抗加齢医学会は病気になってから治療するという今までのアプローチではなく、加齢に焦点をあて、(※2)予防医学や(※3)抗加齢医学を通じて人々のQOL(生活の質)の向上を図り、健康寿命を延ばし抗加齢医療の確立を目指している学会です。当院はこの学会の(※4)認定医療施設になりました。この認定施設は全国に27施設(2014年1月時点)あり、福島県では当院だけです。当院の健康管理プラザでは血管や内臓、骨などの体内機能の年齢である体内年齢を測定する「アンチエイジングドック」を行っています。このドックでは筋・体脂肪年齢、血管年齢、神経(脳)年齢、ホルモン年齢、骨年齢を様々な機器で測定し、病気の早期発見や予防、早期治療を目指します。ご自身の身体のウィークポイントを知っていただき、元気に過ごすことができる健康寿命を延ばしていただくためのアドバイスもしています。
「複合施設ホリスティカかまた外観」
なぜこのような取り組みを始めたのでしょうか
私はこの病院に来て、一つの転機を迎えました。私が執刀していた頃は、患者さんに命をかけた心臓疾患の手術を受けていただき、退院するまでの約1カ月の入院期間を経て「おめでとう!」と患者さんを送りだしたら、私の役目は終わりだと思っていました。退院後、患者さんの身体的問題は解決されたかもしれません。しかし、その後、患者さんがだんだんと歳をとっていくと「ここが悪い、そこが悪い」と、どうしても不調が出てきて別の病気にかかってしまう場合があるのです。私はこういった加齢による不調で別の疾患に悩まされてしまう患者さんの現状から、病気を予防し健康な体を維持すること、すなわち健康寿命を延ばすことに専念したいと思うようになりました。当院の若い医師達が治療し無事に退院された患者様方に、健康を取り戻したことを実感してもらい、その健康を維持するためにはどうすればいいのだろうか、また病気にならない為にどう予防すればいいのか、治療の前後にある「病気の予防」と「退院後の健康維持」が、私の第二のライフワークだと思っています。私は多くの方に健康について啓蒙していきたいと思います。
※連載・医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。
プロフィール
星野 俊一氏(ほしの しゅんいち)
役 職 (2014年3月1日現在)
社会医療法人福島厚生会 福島第一病院 理事長
福島県立医科大学 名誉教授
社会福祉法人慈仁会 理事長
日本静脈学会 名誉理事長
出 身
1965年 福島県立医科大学 卒業
資 格:所属学会
日本胸部外科学会指導医
日本外科学会認定登録医
心臓血管外科名誉専門医
日本循環器学会専門医
日本体育協会公認スポーツドクター
日本医師会認定健康スポーツ医
身体障害者福祉法指定医
日本抗加齢医学専門医
日本脈管学認定脈管専門医
〒960-8251
福島県福島市北沢又字成出16-2
TEL:024-557-5111(代表)
FAX:024-557-5064
URL:社会医療法人福島厚生会 福島第一病院ホームページ
◆用語解説◆
運動器症候群のこと。骨や筋肉、関節、椎間板といった運動器に支障が生じることで、日常生活に障害をきたし要介護リスクが高まる状態。ロコモティブ シンドロームの患者数は、予備軍を含めて全国で4700万人以上いるといわれている