情報誌「医療人」®

今月の医療人紹介

(2016年6月1日掲載)

医療生協わたり病院
副院長 内科 科長 循環器科 渡部 朋幸 氏


病態そのものを考える超音波検査と、患者の生活そのものを考える診療

 福島市渡利にある医療生協わたり病院は、地域に暮らす福島医療生活協同組合員の協同の心と力を集めてつくられた“みんなの病院”として、1975年から健康増進のための活動を続けている。今回は、わたり病院の副院長であり、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定専門医、日本超音波医学会認定専門医として診療に尽力している渡部朋幸氏にお話を伺った。渡部先生が専門の1つとする超音波を用いた診療は、超音波によって得られたデータから個々の病態そのものを考えるという過程を必要とする。また先生は、患者が通常、病院内では見せないような生活の背景を考慮した診療が重要だという。そこに共通する、病態や生活などに対する根本からの理解を基にした医療の在り方を今回の取材から窺うことができた。


福島県で死亡率が高い心疾患
厚生労働省が発表した平成26年人口動態統計をみると、福島県は全国的にみても心疾患の死亡率が高くなっており、県全体の課題と言えると思います。そこで、まずは心疾患とはどういう疾患なのか、先生からわかりやすくご説明ください

 まず心臓という臓器について説明します。心臓は、人間の体のエンジンに相当する内臓で、一日に10万回程度拍動します。一回の拍動当たり80mlの血液が拍出されるとして計算すると、一日に約8トンもの血液が心臓から全身へ送られていることになります。その心臓が動き続けるためには、心臓を動かしている心筋に酸素や栄養分が十分送られていなくてはなりません。それらを運ぶ役割をするライフラインが冠動脈です。この冠動脈で動脈硬化などが起こると血液が心筋に十分送れなくなってしまいます。そうなることで生じる疾患が虚血性心疾患です。この疾患は心疾患の中では最も多いです。その他に、弁膜疾患という、左右の心室に2つずつある血液の逆流を防ぐための弁が、何らかの原因で十分機能しないことにより生じる疾患も代表的な心疾患の1つです。
 虚血性心疾患や弁膜疾患などが悪化していくと、全身の体組織に十分な血液を供給できない状態になり、息切れや疲労感が生じたり、肺に水がたまったり、足に浮腫が生じたりするなどの症状が現れる、心不全と呼ばれる状態になります。
 長生きすればするほど、心臓はいろいろな病気によって機能を低下させていき、心不全に向かってしまうのはどうしても避けられません。ですが、心疾患のリスク要因には生活習慣が大きく関係しますので、まずは生活習慣の見直しによって心疾患の予防に努める必要があります。そして当院では、医療生協の組合員の方や地域住民の方の健康増進を大きな目標として、病院での医療提供はもちろんのこと、予防・健診・医療・介護の全体に力を入れていますので、心疾患の予防のための啓発活動なども行っています。


福島県で心疾患の死亡率が高くなっている原因はどのようなことだとお考えになりますか

 福島県は、厚生労働省による平成22年の都道府県別年齢調整死亡率を見ると、急性心筋梗塞は男女とも全国第1位となってしまっています。心疾患による死亡率が福島県で高い原因の1つは、県全体の高齢化によるものだと思います。一般的に、年齢が高まることによる心疾患のリスク増大は避けられないところもあります。しかし、福島県民が全国的に最も長寿というわけではありませんので、相対的に、心疾患が増える原因は他にもあるのだろうと思っています。
 例えば、前述の統計データによると、福島県は、脳梗塞が男性第5位、女性第1位、糖尿病が男性第14位、女性第12位となっており、動脈硬化が関連すると思われる項目において全国でも上位を占めています。言葉を変えると、高血圧と肥満、糖尿病など、長年にわたる生活習慣の結果も現在の状態をもたらしている要因の1つなのではないかと感じます。
 そうした福島県民の生活習慣の傾向について、2つほど実感していることがあります。それは、運動する習慣を身につけにくいということと、食生活に関することです。
 私は、以前、東京都の医療機関で勤務していたことがありますが、その当時の印象として、外出するお年寄りの姿を公共交通機関などで見ることが頻繁にありました。一方福島県では、どうしても自動車を利用しないと移動が難しかったり、冬場は寒冷な気候のため自宅にこもりがちになってしまったりする環境にあります。そのため、外出するお年寄りの姿を目にする機会は少なく、外で体を動かす習慣を身につけにくいように感じます。病院で高齢者を診療していても、冬場はどうしても体重が増加し過ぎてしまいがちだと感じます。
 また、食生活に関して、一般的に醤油や味噌などの塩分が高い調味料は使用量を抑えることが高血圧等の予防のために推奨されますが、県内の一部ではそれらの調味料をより多く使うことに抵抗がない食文化が古くから定着したままになってしまっているところもあると耳にします。
 そうした背景にあって、例えば食生活に関して「塩分を減らしてください」とだけお伝えしても、実際には今の食事の何が悪いのか、わからない方もたくさんいらっしゃいます。ですから、当院では実際に病院の献立をご本人やご家族の方にも召し上がっていただき、「これが推奨される塩分量の味付けです」と実感してもらえるようにしています。



地域の循環器内科として
地域の循環器内科として先生が特に問題視しているのはどのようなことでしょうか

 私が特に問題視しているのは、高齢化と心不全患者の増加です。
 日本循環器学会の慢性心不全治療ガイドラインでは、日本の慢性心不全患者の心不全増悪による再入院率を増加させている誘因として、ナトリウム・水分制限の不徹底が多いと指摘されています。特に重症の慢性心不全の治療には、水分・塩分管理と安静が必要です。ですが一方で、日本整形外科学会が提唱したロコモティブシンドローム(運動機能症候群)という概念がありますが、運動不足に陥り、運動器の機能が低下すると、介護が必要になるリスクが高まってしまいます。ですから、元気に動けるお年寄りには、やはりしっかり歩いて運動して欲しい、という思いがあります。
 この、過度な運動を避けるべき慢性心不全患者が、ロコモティブシンドロームの予防のために運動を行うという、いわば相反した状態をどうすればよいのか、医療者であれば誰が説明しても同じく上手に言えるようにしていく必要性を感じています。
 運動管理だけでなく、水分管理にしても、夏場は水分が多い方が脳梗塞などの予防もできるかもしれないし、塩分管理にしても、暑い最中に出歩けば塩分を取らないと熱中症になる危険性もあります。
 つまり、慢性心不全患者だからといって、全員が同じようにいつでも水分・塩分管理と安静をすれば良いのではなく、環境やご自身の状態に合わせて、上手にバランスを取りながら、病気を抱えた状態で元気に長生きしていただけるように、治療も患者指導も行っていくというところが私たち循環器内科に課せられているテーマなのだろうと思っています。


貴診療科の体制と特長をお教えください

 当院には現在、日本循環器学会認定専門医が3名おり、また循環器内科として実際の診療は2名の医師が担当しています。当循環器内科の診療の対象疾患としては、最初に挙げた虚血性心疾患や弁膜疾患などの心疾患を中心に診ています。また、特に診療の難しい高血圧の患者さんについては私が診ていることが多いと思います。
 当診療科の特長についてですが、まず、多くの場合、患者さんの主訴は多岐にわたります。また、現在は多くの患者さんが複数の疾患を同時に抱えています。しかし一方で、現在医療の分野では専門の細分化が進んでいます。例えば、問診の際に患者さんが訴えた1つの症状から特定の疾患が疑わしいと思っても、実際に精密検査をしてみると別の疾患だったということも多くあります。私は心臓病が専門なので、私のところには息苦しさを訴える患者さんがよくいらっしゃいます。しかし、息苦しさを症状とする疾患は心臓に限りません。呼吸器の疾患でもあり得るし、内分泌代謝内科などが専門とする疾患でもあり得ます。
 そうした中で、当院の内科全体では、まずしっかり診断を行い、私たちができる範囲の専門的な治療を提供します。その上で、例えば患者さんが別の疾患も抱えているなら、それが私たちの専門とする疾患でなくとも、その患者さんが私たちの医療を求めている限り、患者さんに対するかかりつけ医のような主治医として、一緒に治療の方向性を見付けていったり、必要な科への橋渡しをしたりできるよう心がけています。


そうすると他科との連携というところも重要になるかと思いますが、そうした点での工夫などをお教えください

 私たちは、東日本大震災以降、診療の均質化、情報の共有化の重要性を改めて考え、電子カルテ化を一気に進めました。また、現在は毎朝、新入院カンファランスを行っています。新入院カンファランスでは、全科の医師が集まり、モニターで新入院患者の一覧を見ながら、初期対応を報告したり治療方針を話し合ったりします。また、全医師が集まる医局の中央に4台の電子カルテを配置し、医師同士がディスカッションしやすい、気軽に相談し合える環境作りを進めています。そうした工夫により、一人の患者さんを医師一人ではなく、わたり病院全体で支えられるようにしている、という側面があると思います。
 また、例えば高血圧は長年にわたってその血管を痛める一番の原因ですが、血圧に関する患者さんの知識の向上、そして看護師等のスタッフに対する教育にも力を入れて取り組んでいます。スタッフの教育に力を入れることで、誰がどの患者さんの対応をしても、同じ質の医療を提供できて、一定の必要なことを患者さんに指導できるようにしています。そうすることで、予防や早期発見・早期治療、ひいては病気の減少に繋がることを信じています。



心不全の最も多い原因疾患、虚血性心疾患についての診療
地域の問題の1つとして心不全患者の増加を挙げていただきましたが、心不全の最も多い原因疾患である虚血性心疾患についてご説明ください

 虚血性心疾患とは、冠動脈の動脈硬化等が原因で十分な血液が心臓を動かす心筋に送られなくなる疾患です。その中で、冠動脈が細くなって心筋に十分酸素や栄養が行かない疾患を狭心症といいます。症状は人によって千差万別ですが、胸痛や胸部の圧迫感、人によっては歯のうずきや肩の痛みなどの症状を訴えます。また、症状が何分か継続し、その後自然に治まるというのも狭心症の症状の特徴です。この狭心症には、発作の起きる状況や強さ、持続時間などが類似した安定狭心症というものと、それらが一定しない不安定狭心症というものがあります。安定狭心症の多くは労作性といって、心臓に負荷がかかることをきっかけに症状が起きる特徴を持ちます。逆に不安定狭心症は、心臓に負荷がかかるような動作をしなくても前触れなく症状が現れるという特徴があります。不安定狭心症は安定狭心症より状態が悪く、心筋梗塞になりかかっている恐れがあります。ですから、心臓に負荷をかけていない状態で症状が現れたら、心筋梗塞の危険信号ということになると思います。
 また、冠動脈が完全に詰まってしまう状態を心筋梗塞と呼びます。冠動脈の閉塞が長時間続くと、心筋が壊死してしまいます。そして、壊死した心筋は二度と戻りません。そのため、心筋梗塞が起きてしまう前に医療機関を受診することは重要です。しかし、心筋梗塞の前兆として胸痛や息苦しさなどの症状が現れるのは患者さん全体の半数程度です。もう半数の方は突然前触れもなく冠動脈が詰まってしまうことになります。ですから、もし心筋梗塞が起きてしまったら直ちに治療を受けることも重要です。
 虚血性心疾患のリスク要因として、高血圧、高コレステロール、糖尿病、喫煙習慣などが挙げられます。また、最近では軽い腎臓病も虚血性心疾患のリスク要因になることが知られています。さらに、若くして心筋梗塞を発症された方をご家族に持つ方も狭心症のリスクを持つと言われています。


虚血性心疾患を発症する年齢層に何か特徴はあるのでしょうか

 虚血性心疾患は、昔は70代の病気でしたが、最近は30代〜50代の方も心筋梗塞になる方が多く、この10年でだいぶ若年化している印象があります。また、その傾向は今後も続くと思います。若年化の最も大きい原因は欧米化した食生活にあると思います。また、その中でも特に30代や40代で心筋梗塞を起こす方には共通の傾向があり、コンビニ食などの偏った食生活、日頃の運動不足、喫煙習慣などが共通していることが多いです。50代後半以降の方の起こす心筋梗塞と、若年者が起こす心筋梗塞を同じに考えて、同じような指導をして、再発を予防できるかというと、正直に言えば今は答えがありません。一般的には塩分コントロールや薬の服用を守るという生活上の指導が再発予防には一番大事ですが、若年の方に関してどういう対策をすればよいかということは、おそらくどの循環器内科の先生にとっても、本当に課題ではないかと考えています。


そうした中で、先生のところでは若年者の虚血性心疾患に対する診療でどのようなことを重要視されているのでしょうか

 私が若年者の診療をするときに重要視することは、まずは医療機関を定期的に受診することです。日本人の所得は10年前よりも減っていて、皆さんの生活が大変になっているということは外来で本当に痛感します。そのため、生活を維持するために医療機関を受診することができなくなってしまい、薬の服用を継続してもらえなくなることがあります。しかし、そこで患者さんの生活を考慮しない治療計画を押しつけて、無理に受診をさせ、薬を服用させても、治療が患者さんの負担になりすぎてしまいます。そうすると今度は患者さんが職場でハンディキャップを負ってしまい、生活状態が悪化するなど、悪いサイクルに陥ってしまうこともあり得ます。ですから、患者さんと相談しながら、患者さんの求める現実的な治療計画を決めていくことになります。
 そのように、患者さんの背景にある日常生活は社会全体からの影響も受けるので、医師や病院の力ではどうしようもない部分があるとは感じますが、私は、できる限り患者さんの求めに合わせた医療を提供したいと考えています。


患者指導で工夫していることをお教えください

 若年の患者さんに限らず、生活に関する指導は、その人に合わせて、継続になるべく負担がかからないかたちで実行していくことが重要です。例えば、ご家族で暮らしている方の中で、たった一人のためのスペシャルな食事を毎日作り続けるということは、食事を準備する方にとっては大変です。ですから、特別な食事を用意するのではなく、いかにして推奨されているものを、飽きずにバリエーションを付けてとり続けるかという工夫が必要です。また、一方で、現代の日本人の多くはオーバーカロリー・オーバー塩分の食事になっている傾向がありますので、患者さんが食べる食事が実は健康のために普段からみんなが目指すべき食事である、ということを例えばご家族全員で思えるようになるといいのではないかというふうに感じています。
 そうした中で、管理栄養士には患者さんの生活背景を申し伝えて、患者さんに合わせた指導をしてもらうようにしています。


貴院では、狭心症の診療としてはどのようなことを行われているのでしょうか

 狭心症には、前述の通り、発作の現れ方が類似した安定狭心症と、発作の現れ方が一定しない不安定狭心症があり、それぞれ治療の緊急性などが異なります。
 まず治療の緊急性が高い不安定狭心症は、基本的には症状から診断できますので、原則的には診断が付いたらそのまますぐ入院していただきます。そしてカテーテル検査を行い、冠動脈の狭窄部位を調べます。その後、不安定狭心症の治療として、カテーテルを入れて血管内の狭窄部位をバルーンで広げて、ステントを留置してその状態を保持します。
 一方、治療の緊急性が低い安定狭心症ですと、日常生活において症状が看過されてしまうことが多く、外来で検査を受けていただかないと診断が付きません。ですから、問診の中で狭心症の疑いがある患者さんから話を聞き出して、必要であれば検査を受けていただくようにしています。検査内容としては、エルゴメーターによる負荷心エコー検査や、トレッドミルによる負荷心電図検査などです。また、昔ながらの階段昇降を行って心臓に負荷を与えるマスター負荷心電図検査を行うこともあります。それから、心臓CT検査や心臓カテーテル検査を行い、狭窄部位がどこにあるのか、一カ所なのか複数なのかといったことを調べます。
 安定狭心症の治療としては、例えば狭窄部位が一本の血管だけで、しかも万が一その箇所が詰まってしまっても大事にはならないだろうという場所であれば、薬物療法を選択することもあります。使用するのはアスピリンといういわゆる血液をさらさらにする薬剤の他、交感神経の活動を抑え、脈が上がりにくくするベータ遮断薬や、血管を広げる血管拡張薬などです。また、当院では狭窄部位を広げるカテーテル治療も行っています。狭窄部位が数カ所同時にある場合は、大学病院に紹介して心臓バイパス手術を選択することもあります。そうした治療法を患者さんと相談しながら決めていきます。



病態を考える超音波検査
狭心症の検査にも用いている負荷心エコー図用エルゴメーターは、県内でも導入しているのが貴院だけと伺いましたが、これはどのような検査なのでしょうか

 負荷心エコー図用エルゴメーターとは、対象者の体を傾斜のあるシートにもたれさせ、自転車のようにペダルを漕がせることで心臓に負荷をかけて、その状態を超音波で検査する機械です。検査の対象となる疾患は狭心症、心不全、弁膜症、心筋症などです。安定狭心症もそうですが、心疾患の中には負荷をかけないと症状が現れないものが多くあります。冠動脈は、加齢や糖尿病などで細くなっていくものですが、もともとの太さに対して75%程度の細さになっても日常生活では症状が現れないということもあります。しかし、日常生活に問題はなくても、放置すると状態は悪化し、例えば心筋梗塞になってしまうこともあり得ますから、心臓に負荷をかけることで現在の状態を正しく評価する必要があります。そのため、エルゴメーターだけでなく、心臓に負荷をかけて行う検査はたくさんあり、その方法としては、運動だけでなく薬を用いることもあります。また、負荷をかけた状態で行う検査は超音波検査だけでなく、心電図検査やRI検査、カテーテル検査などもあります。当院では、その中で、負荷の前後に心エコーを撮る、負荷心エコーを行っております。そして、以前は負荷をかける方法としてトレッドミルという、ベルトコンベアの上を走ってもらう機械を使っていましたが、2014年にエルゴメーターという機械を導入しました。トレッドミルはベルトコンベアを走り終えたあと、脈拍が早いうちに対象者に横になってもらい、さらに呼吸を止めてもらって超音波を当てることになります。しかし、その間に、多くの場合多少脈拍数が下がってきてしまいます。ですが、エルゴメーターの場合は、ペダルを漕いで負荷をかけている最中に超音波を当てることができます。そのため、脈拍数が下がらないままの状態を調べたり、あるいはさらに負荷をかけた状態を調べるということも比較的簡単に行えます。
 精度としては、トレッドミル法を上手に行える施設であれば、感度や特異度に文献上差が無いと言われていますが、実際検査を行う中では超音波検査できる負荷の量に明らかな差があると実感しています。また、エルゴメーターの特長として、体を横にした状態で無理なく負荷をかけていくことになりますから、検査中転んでしまう心配が無く安全に行えるという利点もあります。



渡部先生は超音波専門医の資格も取得されていますが、超音波検査の特長をお教えください

 超音波検査の特長としてよく挙げられることに、無侵襲で患者さんに一切害がなく、そのため妊婦さんや赤ちゃんにもできる検査であること、また、機器に機動性があり、移動が困難な患者さんのところへ機器を運んで行うこともできる検査であること等があります。
 また超音波検査では、超音波を通じて病態や、出力された画像の意味を考えるという作業が必要になります。超音波検査では静的に断層を見られるだけでなく、ドプラ法(※1)を用いて例えば血流の速度を評価するなど動的な観察も可能です。そこには、まさに病気の病態そのものを考える工程があり、それが超音波検査の難しいところでもあり、専門的なやりがいを感じるところでもあります。
 現在は多くの病院で専門の超音波検査士、いわゆるソノグラファーが超音波検査を担当するようになっていますが、例えば負荷心エコー検査だと、不測の事態に備えた医師の立ち会いが必要になります。そうしたことから負荷心エコー検査は医師の負担が大きくなるため、全国的に十分広まっておらず、学会などではそれが課題として取りあげられることもあります。ですが検査としての有効性が大きいため、私は超音波専門医として、当院でエルゴメーターによる負荷心エコー検査を行っています。
 当院でソノグラファーの資格を持つスタッフとしては、循環器領域が3名、腹部領域が2名、それから福島県県民健康管理調査甲状腺検査支援合同委員会が認定する、福島県限定の甲状腺検査認定資格を取得している方が2名います。また当院では、週に2回、ソノグラファーによって撮影された超音波のレビューを私と彼らとで行って、その検証をしています。
 超音波検査は超音波の反射を画像化する検査ですので、空気や骨、脂肪や筋肉など様々な条件に影響を受けます。そのため必要な情報を画像化しづらいということも、ときにはあります。そうしたときに大事なのは、1つの道具に拘らないことだと私は思います。日本の医療の有り難いところは、診療に使えるたくさんの機器があり、どれでも選びうるというところです。ですから、例え超音波検査ではわかりづらくても、条件さえ許せばCT検査やカテーテル検査などを患者さんと相談しながら行っていくのが大事だと思います。



今後の展望
今後の展望についてお聞かせください

 私は、患者さんへの診療だけでなく、超音波を通じて心臓の病態を探る臨床研究も長年続けてきました。私にとって、臨床研究というのは、自らの臨床のレベルを上げてくれたり、全国にいる同じ志を持つ仲間との出会いの場を作ってくれたりするものです。ですから私はこれからも、臨床医として診療に臨むのと同時に、臨床研究も続けていきたいと思っています。
 それから、病院の中では、診療室や病室、集中治療室などで患者さんの姿を見ますが、それだけでは患者さんの本当の姿は見えにくいと思っています。当院には、在宅医療室があり、身体機能の低下などで通院が難しくなった患者さんに対して定期的な往診を行っています。私自身も以前は往診に伺っていました。その往診によって私は、病院にいる患者さんとしての顔ではなく、その方自身の、生活の中にある素顔を見ることができました。また、往診では、季節ごとの変化や、そこに住まわれているお子さんたちの育つ姿も一緒に見られたりして、自分自身の保養にもなり、私にとって非常に好きな仕事でした。そうした往診の経験から、病院内での診療においても、引き続き、患者さんの素顔の生活を意識してお一人お一人と向き合っていきたいと思います。


貴院は県内に3つしかない日本超音波医学会に指定された超音波専門医研修施設ですが、教育に関する展望はございますか

 超音波医学は私にとって好きな領域で、博士論文のテーマも超音波に関するものでした。なぜ好きかというと、超音波という1つの軸を共通言語として、様々な科の先生方とその領域の話をすることができます。先ほどもお伝えしたとおり、現在は複数の疾患を同時に抱えている方がたくさんいらっしゃいます。また、そうでなくとも、診断を進める中で患者さんの抱える疾患が自分の専門領域のものでなく、別の領域の疾患であることがわかるようなこともあります。そうした中で、私たちは患者さんの求めに応じて、かかりつけ医のような主治医であるように務めています。ですから、そういう意味でも、様々な科の先生方と超音波という軸を介して話ができるということは、私の診療においても非常に重要で、そしてどの科を目指す研修医にとっても共通言語を得ることができるという意義のあるものです。また超音波は、画像の解釈が必ず必要となり、それがまさに病態そのものを考えることとなりますので、研修医の教育の道具としても非常に魅力的だと感じています。超音波にはそうした意義や魅力を感じますので、私は研修医たちに、超音波についても熱意を持って指導しています。
 また、先ほど往診に関する話をしましたが、研修医たちにもやはり往診に出かけていって欲しいです。そして、患者さんの素顔を見た上で、患者さんと話ができるようになって欲しいと思っています。そうすることで、その患者さんがその場でしゃべらない、裏側に抱えた訴えなどを適切に聞くことができる医師になって欲しいと願っています。

※頼れるふくしまの医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。


プロフィール
渡部 朋幸 氏(わたなべ ともゆき)

役  職 (2016年6月1日現在)
 副院長 内科 科長 循環器科

専門分野
 循環器内科、超音波医学

資 格 等
 日本内科学会認定総合内科専門医
 日本循環器学会認定専門医
 日本超音波医学会認定専門医・指導医
 禁煙学会指導専門医
 博士(医学)
 福島県立医科大学 臨床教授




医療生協わたり病院

 〒960-8141
 福島県福島市渡利字中江町34
 TEL:024-521-2056(代表)
 FAX:024-521-2926
 URL:医療生協わたり病院ホームページ




◆用語解説◆

※1 ドプラ法

超音波による検査法の一種であり、ドップラー効果を利用して体内を移動している血液等の方向や速度を測定するために用いられる。
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