頼れるふくしまの医療人

今月の医療人紹介 

(2016年8月1日掲載)





一般財団法人 脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院
消化器センター長
西野 徳之 氏


「すべては患者さんのために」を実践した医療【Ⅰ】
中核病院の消化器内科医としての役割と、理想の医療を目指した取り組み


 一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院の消化器センターは、全国の主だった消化器センターに引けを取らない内視鏡検査数を実施している。東日本大震災以降もその実施件数は増え続けているが、一時期はセンター長の西野徳之氏と後期研修医の実質2人で入院患者の診療、外来から検査、救急まで対応していたという。今回は2号にわたって、中核病院の消化器内科医として地域を支え続け、さらに積極的な情報発信まで行ってきた西野先生にその役割や取り組みの特長を伺った。西野先生は、「臨床推論を用いた腹部単純X線診断、苦痛のない内視鏡(上部消化管内視鏡検査)、膵炎の危険性を抑えた内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP:Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography)、研修医への指導」を4つの柱として、地域医療に取り組んできたという。今号では、同センターの特長や体制と、4つの柱のうち臨床推論を用いた腹部単純X線診断と、苦痛のない内視鏡を中心に紹介する。



経験に基づいた地域医療の提供と、病院内におけるコンシェルジュとしての役割
先生はこちらに着任される以前は、出身地であられます北海道で医療に貢献されていたそうですが、どのような医療に取り組んでおられたのでしょうか

 私は、自治医科大学の出身です。そのため、へき地医療ということで、地域に生活の場を置いて、足かけ7年利尻島で地域医療を実践してきました。利尻島には有床病院が1つしかなく、診療科もすべてそろっているわけではありませんので、私は乳幼児から老人、妊婦まで診なくてはなりませんでした。また、風邪や腹痛などで一時的に診察をするだけでなく、自分も利尻の住人の一人として、時間をかけて変化していく地域住民の健康を診ていました。その中で、がんの早期診断にも取り組んできました。当時、島の人口はおよそ8,500人程度でしたが、がんの患者さんは年間4、50人くらい見つかっていました。私は、できるだけ早期がんで見つけることができるよう検査の励行だけでなく、地域住民への啓発活動も含めて診療に取り組んでいました。
 そして、そのような経験を通して人口規模などが大きなところで診療をすると、もっと多くの患者さんのために仕事をすることができるのではないかと思い、福島県の総合南東北病院に赴任しました。


先生がこちらに着任されて実践されてきた地域医療の特長についてお教えください

 まず、我々でなければできないような地域医療の考え方、実践の仕方というのがあると考えています。一般的に、内科の中で対象となる患者さんが特に多いのが消化器内科と循環器内科です。そして消化器領域は、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、膵臓、胆のうが含まれ、疾患の範囲がとても広いです。そのため、臓器別に専門化されて、ある先生は胃と食道しか診ない、ある先生は大腸しか診ない、ある先生は肝臓しか診ない、というように特定の分野に分担されている医療機関も多くあります。ですが、私は今まで利尻などで、消化器領域の疾患はもちろんすべて診てきましたし、それだけでなく循環器疾患や糖尿病も一緒に診てきました。そうした経験があるため、前述のような専門だけを診る見方とは別の見方ができるのだと思います。消化器内科医が総合診療を兼ねると、患者の診方も変わってきます。
 また、当科では、私だけがそのように全般を診るのではなく、他のスタッフも同様に、消化器を満遍なく診られるように診療しています。そうすると世間一般では、「診られる臓器の範囲は広いけれども、各臓器を高い専門性で診ることができないのでは」と思われがちですが、そうではなく、私たちは幅広く診ながらも高い専門性で診療していますし、若い医師たちもそれができるように育ててあげたいと思っています。
 現在、当科は、2名の後期研修医が加わり医師が8人おりますが、コアとなるスタッフは4人です。一方で当科は、年間に、上部消化管内視鏡検査が14,000件、下部消化管内視鏡検査が5,000件、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(以下、ERCP)(※1)は400件程度行っています。この件数は、日本の消化器内科の中でもトップ10くらいに入るのではないでしょうか。例えば上部消化管内視鏡検査だけでみても、前述の年間件数から一日の平均を計算すると約50件です。同じ規模の消化器内科であれば20人程度の医師がいるものですが、我々は実質その1/3程度の医師でやっているので、一人が三人分の仕事をしなければなりません。
 当科に患者さんが集中している理由の1つに、地域における消化器内科医の不足があります。郡山市の人口は33万人、二次医療圏、三次医療圏まであわせると50万人から80万人くらいいます。しかし、郡山市内の病院で入院患者を診る消化器内科医が20人に満たないのです。これだけの人口数に対して、消化器疾患による入院患者を診られる医師数がこの程度しかいないというのは、異常です。例えば、人口が70万人程度の国内の別の市では5、60人程度の消化器内科医がいると思います。あるいは、別の人口30万人程度の市では100人程度の消化器内科医がいるところもあります。それらの市と比較しても、やはりこの地域の消化器内科医は足りていません。元々多くはありませんでしたが、東日本大震災以降、さらに少なくなりました。当科も震災以前は医師が9人いましたが、一時は3人まで減りました。そのうち1人は後期研修医になったばかりの医師だったこともあり、実質は私が彼をバックアップしながら入院や急患も診ていました。そんな私の姿を見て、後期研修医だった彼も「負けないぞ」というような気持ちで頑張ってくれたからこそ、現在の当科の状況があります。
 いずれにせよ、特に震災後からは消化器を診られる医師も不足していましたので、私自身、それに対して危機感を持ち、県外から医師を集めることができるようFacebookや著書などを通じて「自分たちは忙しさに負けずに、それをプラスに転換するようなことをしていますよ」という情報発信も行いました。そして、徐々に研修医も増え、福島に残ってくれる県外出身の医師も増えてきました。また、当院にはPETや、陽子線治療があるために、他ではできない医療ができるという魅力があります。ですから、そうしたところをアピールして「腕試しをしたい」と思うような若い医師を呼び込み、それが地域の医療活性化にもつながるのではないかと思っています。


実際の診療における貴診療科のスタンスや病院内での役割をお教えください

 消化器内科を受診される患者さんは、例えば胃痛を訴えていらしたときに、原因疾患が胃潰瘍ということもありますが、心筋梗塞ということもあります。あるいは、漠然とした腹痛や食欲不振、熱っぽさなどの症状で受診される患者さんも多く、もちろん、そうした方を検査してみると、消化器疾患でないということも少なくありません。そうした症状で受診される患者さんに対して、我々は敷居を下げて、「どんな患者さんでも、ちょっとした相談でもいいから、調子が悪かったらまず消化器内科にいらっしゃい」というスタンスでいます。
 病院内における当科の役割としては、病院の中のコンシェルジュというような意味合いです。いろんな患者さんの診察をしていく中で、その患者さんが消化器疾患以外の疑いが強ければ、患者さんに必要な診療科を提案して紹介したり、消化器疾患が疑われれば精密検査から治療まで導くなど、患者さんがたらい回しにならない流れを作る診療をしてゆきたいと思っています。
 医療においてすごく難しいところは、患者さんと医師がうまくコミュニケーションをとる必要があるというところです。私の患者さんの多くは「西野先生にだったら言えるんだけど」という言い方で話を打ち明けてくれることがあります。それは、裏を返すと患者さんによっては、自分の症状や心配を医師に話しにくいと思っている方もいるということです。「西野先生の診療科じゃないことはわかるんだけど、どの科で診てもらえばいいのかな」と相談を受けることもあります。患者さんには、訴えや悩みを否定せずに受け入れてもらえる場が必要です。ですから私はその場を提供できるようにしています。実はそれこそが総合診療を体現していることなのだと自負しております。加えて、我々は必要に応じて内視鏡検査や超音波検査もできますし、CTの読影もできますし、がんのことも専門的にわかっています。さらに、消化器全般も高い専門性で診療できます。


先生のところでは画像検査も充実しているのでしょうか

 患者さんの診察はもちろん問診と診察から始まります。それに加えて採血(血液検査)、検尿を行います。しかし、多くの患者さんは、救急外来も含めて、消化器内科や、それ以外の診療科も、画像検査がなければ診断に至らないことが多いです。画像診断は現代の医療には必要不可欠です。
 当院には現在8人の放射線診断専門医がいます。ですので、CT検査終了後1時間程度でレポートができあがってきます。そういうところにも病院の総合力が現れてきていて、専門の読影医が所見を見逃さずに読影してくれます。だからこそ、我々も正しい診断に近づきやすくなります。ですので、消化器内科の我々だけが頑張っているわけではなく、病院として全体的なバックアップ体制が整っているので、的確で質の高い診断ができているのだと思います。また、我々は消化器の専門医として、放射線読影医と異なる視点で画像の読影をします。わからないところは教えを乞い、我々の考えも伝えて、お互いにインスパイアして診断の質を高めていくようにしています。



腹部単純X線検査における「気づき」と臨床推論
先生は腹部単純X線検査に力を入れておられるそうですが、診療においてどのように活用されているのでしょうか

 当科では、初診で来た患者さんはすべて腹部単純X線検査をするようにしています。かつて腹部単純X線検査は、何らかの原因で腸管が詰まる腸閉塞(以下、イレウス)の状態を調べるためのniveau(ニボー:鏡面形成)と、胃潰瘍などで消化管が穿孔して腹腔内にガスが漏れた場合のfree airくらいしかわからないものとして、一般に認識されていました。しかし、実は、腹部単純X線写真には多くの情報が含まれていて、それを如何にして引き出すか、ということが重要です。
 例えば、超音波検査を行っても、血液検査を行ってもわからない症例が、腹部単純X線検査によって異常所見に気づくこともあり、それによってCT検査や内視鏡検査に繋げることができれば、それは患者さんにとって大きなメリットがあると思います。
 ですから私は、採血(血液検査)と同じように、診察に必要な情報を得る1つの検査として、腹部単純X線を撮影します。
 腹部単純X線写真に含まれている情報を最大限に引き出すためには、「気づき」が重要になります。


先生が腹部単純X線検査に力を入れるようになったきっかけをお教えください

 私が腹部単純X線検査に力を入れるようになったきっかけとしては、メンターであった循環器を専門とする医師から「近頃の若者は胸部単純X線検査を疎かにして、いきなりCTを撮るけれども、やはり胸部X線写真を撮影し、CT検査の必要性を考えたほうが正しい診断に導くことができるし、自分の力量を上げることにも繋がるから、胸部単純X線検査は大事にしていかなくてはいけない」ということを伺ったことがありました。専門こそ異なりますが、私もその先生に倣って腹部単純X線検査を診療に役立ててゆこうと考え、腹部単純X線写真を撮った上で、CTを撮るべきか判断するトレーニングはしました。ただ、当時は患者数の少ない病院で診ていましたので、症例のバリエーションがそれほど多くありませんでした。
 しかし、こちらの総合南東北病院では、様々なバリエーションを持つ多くの症例に出会うことができました。また、腹部単純X線写真を撮るだけでなく、その後CTを撮り、病気が診断できてから、再度X線写真を見ると、案外X線写真だけでも病気の所見を評価できることがありました。そのためCTを撮影するべきかどうかを腹部単純X線検査によって判断してゆくべきだと思うようになりました。
 そうして、様々な症例を腹部単純X線検査によって診ていくうちに、この検査の講演会をしないかと声をかけられ、各地で講演をさせていただくようになりました。そうして経験を積んでゆくと、さらに多くの症例と出会うことができました。もし私に利尻島での経験がなく、消化器だけしか診ることができなかったら、こういうチャンスも得られなかったと思います。消化器以外の様々な症例も診てきた総合診療医としての経験が、現在の私の腹部単純X線写真の読み取りにも役立てられています。


腹部単純X線写真の読み取りに先生のご経験が生かされているということで、やはり先生のようなご経験がないとそうした読み取りは難しいのでしょうか

 私はこれが、決して私だけにしかできないとは思っていません。むしろ多くの人にそうした見方を身に付けていただき、日常診療の中で生かして欲しいと考えています。そのため、2014年に著書を発行し、また県内や県外も含め各地で講演なども継続しています。僭越ながら、そうした仕事を通して日本の医療を変えてゆきたいと私は思っています。そしてそれが私の役目だと思っています。現在の日本の医療においては、一般的にはいきなりCT検査を行う医療機関もありますが、そうすると医療費も高くなりますし、一般にCT検査による被ばく線量は、目的や装置によって異なりますが、腹部単純X線検査の10倍以上です。また、CT検査を行った結果、病気は何も見つからないということも少なくありません。ですから、CT検査を行うべき症例とそうでない症例を腹部単純X線検査で評価して判断できるようになる、というのも目的の1つです。 
 また、この検査について私がインスパイアされた出来事があります。以前、ある症例で腹部単純X線検査が行われて、そのときの担当者がスルーしたのですが、その数日後に患者さんの状態が悪化してしまったことがあります。そして、私が以前に撮られたX線写真をもう一度見たところ、既に病変が写っていたことに気づきました。そういう見逃し症例がいくつかあったことが、私にとって、自分の腹部単純X線写真の見方を広めようと考えるきっかけの1つになっています。念のために言っておきますが、見逃した先生を責めるつもりは毛頭ありません。それは誰にでも起きうることです。ですが、我々は患者さんのために、それを起こしてはいけないし、できる限り起こさない診療を心がけるべきです。
 ですので、私は腹部単純X線検査のevangelist(伝道師)として自身のノウハウを広めてゆきたいと考えています。また、それが「西野」という個人名を引き合いに出してもらう必要はありません。日本中のすべての医師が当たり前に行うものとして広まったら、日本の医療の質は確実に向上すると思いますし、私はそれを願っています。現在は、消化器科でも腹部単純X線検査をあまり行われなくなっています。ですが、講演を通して、ある先生から「以前、講演で話を聴いて、自分でも腹部単純X線検査を行うようになりました。そうしたら、講演で聴いたような症例が年間に6例ありました。もし以前のように行っていなかったら、その6例はスルーしていたでしょうが、異常に気づくことができたので、大きな病院へ紹介することができて、患者さんにも喜んでもらえました」とおっしゃっていただいたことがあります。X線の読影は診方さえ慣れてくればその有用性を実感できるはずです。それこそが、私の望んでいることです。5年先、10年先に、私が講演しても「そんなふうに腹部単純X線検査をして臨床推論を行うのは当たり前じゃないか」といわれるようになることが私の夢であり、理想です。


先生の腹部単純X線検査における臨床推論は具体的にはどのように行うのでしょうか

 具体的な方法としては「気づき」がポイントになります。X線写真からniveauなど特定のサインを探すのではなく、画像の中の異常に気づくことが肝要です。そのためには、画像がX線を透視しているものであり、透視の画像として何が写し出されているかを見ていくことが必要になります。X線写真は二次元の白黒の像ですが、その画像の元になっているのは患者さんの身体であり臓器です。ですからその元になっている臓器をイメージし、X線写真に写っている陰影が何なのか考えていくことが、私にとって『読影』するということです。『読影』によって異常に気づければ、その異常がなんなのかわからなくても、「これはおかしいからCT検査をしよう」という判断ができます。必要なのは解剖学的な知識や病気に関する知識であって、特定のdog’s ears sign(※2)Naclerio’s V sign(※3)といった言葉でもありません。特定のサインばかり探そうとすると、大事な所見があっても目がいかないことがあるので、画像の中で何がおかしいかということをきちんと探さなくてはいけません。そうしたおかしいものを探す『読影』を、私は、「『心眼』で診ましょう」と言っています。

出典:一般財団法人脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院
消化器センター長 西野 徳之氏
 具体的に例示します。救急外来を受診した53歳の男性がいました 。認知症などはありません。便秘と腹痛を主訴に受診しています。私は、この患者さんのX線写真を見たときに、すぐに緊急手術が必要であることがわかりました。それは、X線写真の情報から、便が詰まって上行結腸がパンパンに張っていることがわかり、その原因となっている閉塞部位にがんがあることが疑われたからです。その理由としては、本来、腸腰筋という太い筋肉の脇には上行結腸が写っているはずなのに、画像には一部しか写っていない。だから、そこに閉塞させているものがあるだろう、と画像から読み取ったからです。この症例を、患者さんの「2日前から腹痛があり、2日前から便が出ませんでした」という話だけで便秘だと判断して、浣腸をして下剤を処方して帰してしまってはいけません。なぜなら、通常、患者さんの話したとおりのことだけだったら、救急外来を受診するとは考えられません。その時点で、ただの便秘ではない可能性を疑う必要があります。それを踏まえて考えると、X線写真の見方も全く変わってゆきます。残念ながら、この患者さんの場合、私がX線写真を見たのが初診から二日後に再度受診されたときでした。そのときのX線写真を見ると、以前は上行結腸にあったガスもなくなり、さらに状態が悪化していることがわかります。CTの画像を見ると、上行結腸が破裂寸前であることがわかります。その後、緊急手術となり、上行結腸は破裂していませんでしたが、その外側(漿膜)は裂けている状況だったことがわかりました。
 繰り返しますが、問診の時点でただの便秘でない可能性に気づき、その気づきとX線写真の情報を照らし合わせて、画像には何が現れているかということを考えると、画像の異常にも気づけるはずです。ですから画像を見るだけでなく、患者の病態と照らし合わせて考える、すなわち臨床推論を行うことで本質が見えてくるのです。それは特別なことではありません。研修医でも修学できることです。これをぜひ日本中の医療の現場に広めてゆきたいです。

出典:一般財団法人脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院
消化器センター長 西野 徳之氏




先生が診療の中で腹部単純X線検査を活用している具体的事例をお教えください

 私は腹部単純X線検査を日常診療のルーチンで行っているので、大腸内視鏡検査前にも必ず撮影します。例えばS状結腸にがんがあって、X線写真を撮るとS状結腸も下行結腸も横行結腸も上行結腸も便が詰まっていて、直腸には全然便がない状態だとわかったとします。このとき大腸内視鏡検査を行うために2リットルの下剤を飲むと腸が破裂してしまいます。ですが、X線写真でそこまでわかっていれば、浣腸して少し便を出して、内視鏡を入れればその日のうちに診断を付けることも可能です。
 別の事例では、下血があるということで紹介されてきた患者さんがいました。一般に下血には出血部位や出血量により黒色便と赤い鮮血便に分けられます。このときの紹介では、始め、胃潰瘍が疑われる黒色便(胃の出血が胃酸に反応して黒くなったと思われた)として紹介されてきました。
 通常はすぐに上部消化管内視鏡検査を行うと思いますが、私はまず初診の患者さんに対して胸部単純X線検査、腹部単純X線検査、心電図検査、血液検査、超音波検査を行います。それから、上部消化管内視鏡検査を行うか判断します。この患者さんのときは、上部消化管内視鏡検査を行う前に、問診からどうやら胃潰瘍による黒色便ではなく、赤い鮮血便の疑いが強いことがわかりました。赤い鮮血便は、横行結腸以下の出血である事が多く、出血部位が肛門に近いほど便は鮮紅色となります。
 それで、患者さんに対し腹部単純X線検査を行ったところ、便の停滞が見られたので、造影剤を使用しないCT検査を行いました。その結果、S状結腸にがんがある疑いが強まりました。その後、大腸内視鏡検査を行い、確かにS状結腸がんであることがわかりましたので、造影剤を使ったCT検査によって病態を精査しました。その翌日に、本当は入院してもらいたかったのですが、生憎ベッドの空きがなかったため、外来でPET検査を受けてもらいさらに病気の判定をして、その翌日には入院してもらいました。当科では外科との連携体制もしっかりできているのでその翌日には臨時手術として対応していただきました。本事例の場合、紹介されてくることがわかってから手術を行うまで5日間しかかかりませんでした。これだけスピーディーに行える医療機関は他に私は知りません。
 これは特に早かった事例ですが、通常の場合でも当科では疑い診断から1週間以内でPETやCTを含めた術前の検査も終わらせて、外科の先生にお願いできる体制を整えています。その理由は、院是でもある「すべては患者のために」ということを全員で共感し、実践しているからです。例えば自分や身内にがんの疑いがあったら、結論を早く知りたいでしょうし、もしがんならすぐに治療をして欲しいと希望されると思います。その患者さんの希望を叶えるために、当科は速やかに治療のための診断を行い、できるだけ早く治療に入れるようにしています。
 当院では陽子線治療も行えますので、全国からも患者さんがいらっしゃるため、新規のがん患者さんが年間で2,000人程度受診されます。そうした中で我々が病気を見落とすことはできません。患者さんを目の前にしたら真剣勝負ですので、その患者さんを正しく診断するために、あらゆる知識と経験を総動員して正しい診断をつけて治療に導いてあげるのが我々の役目です。そのためには様々な手段を尽くさなくてはいけません。そのための1つの手段として、私は腹部単純X線検査を上手く活用しています。




Oriented Endoscopy〜苦痛のない内視鏡〜
先生は、ご自身の上部消化管内視鏡検査を「Oriented Endoscopy 苦痛のない内視鏡」として動画も公開されていますが(※4)、いつ頃からこの方法を目指されていたのでしょうか。

 私自身は早い段階から、受診者に苦痛のない上部消化管内視鏡検査を行うことを目標にしていました。私が研修医の頃、上部消化管内視鏡検査の上手な先生がいて、その先生は受診者からよくご指名を受けていました。私はこの先生から吸収できるものはなんでも吸収しようと考え、先生が上部消化管内視鏡検査をするたびにそれを見せてもらい、どのように操作するのか、受診者にはどのように説明しているのか学びました。もちろん、初めのうちは上手く行うことができませんでしたが、その先生を目標にしていって、ある程度上達していきました。上手な先生がいれば、その先生の方法を見学させてもらい、それを真似るようにしていきました。そうした中でわかったのですが、受診者は共通して上部消化管内視鏡検査を怖がっていて、この検査がつらいものだという先入観を持っていました。例えば「内視鏡をしますよ」と言っただけでえずいてしまうような方もいます。また、上部消化管内視鏡検査を受けるというだけで寝付けなくなってしまうとおっしゃる方もいます。つまり、過去に受けた上部消化管内視鏡検査のつらさをトラウマとして引きずっていたり、周囲の人からつらい検査だという印象を植え付けられたりすることで過度な恐怖心が生じ、そのために内視鏡を体に入れる前からつらさを感じてしまうという面があります。そのため、苦痛のない上部消化管内視鏡検査を行うには、その恐怖心を取り除く必要がある、ということに私は気づきました。


具体的には、どのような工夫でつらさを感じないようにしているのでしょうか

 現在私はOriented Endoscopy(苦痛のない内視鏡)と名付けた方法で上部消化管内視鏡検査を行っています(※4)。一般的に使用されている経口内視鏡は外径が10〜12mm程度ありますが、私が使用しているのは外径が5〜6mm程度の細径内視鏡です。これは経鼻内視鏡検査で使用されることが多いですが、私の場合は口から入れることをメインにしています。外径の太い内視鏡のほうがやはりカメラの性能は高いです。しかし、それを使用して5mm程度の小さながんを見つけるために15分なり20分なり長時間掛けて検査を行うと、検査によって受診者に苦痛を与えてしまい「もう検査を受けたくない」という思いを強めてしまいます。そうではなく、私の目指すところとしては、Oriented Endoscopyを提供することで、年に一度は検査を受けてもらえるようにして、早期がんで見つけられるチャンスを増やすことにあります。もちろん、精細な診断ができることは大切なことですが、受診者につらい思いをさせないということも大切なことです。ですから、その受診者に「つらくなく検査できますよ」ということを伝え、そして検査が終わった後に「つらくなくて良かったね」と言ってあげられる。それがとても大切なことだと思います。
 私のOriented Endoscopyを受けてゲップが出たりえずく方は、100人中2、3人くらいです。また、初めて上部消化管内視鏡検査を受けるという人に限って言えば100%つらさを訴えません。なぜかというと、内視鏡の飲み方もわからないのでこちらの指示に素直に従ってくれるからです。具体的な方法としては、最初に2、3分掛けて検査の事前説明(Orientation)を行います。検査中も、次にどんなことをするか、そうするとどうなるかということを説明しながら検査を遂行します。リラックスして無心の状態で検査を受けてもらうのが苦痛をなくするためにはベストです。また、以下のことも守ってもらえると検査は楽になります。

 内視鏡を入れての検査自体は5、6分程度で完了します。事前の説明を入れると10分程度掛かりますが、検査による恐怖感を与えてしまうかもしれない受診者を預かるわけですから、時間を掛けてもきちんと説明をして、つらくない検査を提供することが我々のプロフェッショナルとしての流儀だと考えています。そのために、例えば自分の休憩時間を削ることは全く惜しくありません。
 私は、このOriented Endoscopyも腹部単純X線検査による臨床推論と同じく、多くの医師、特に若い医師に真似て欲しいと考えています。そうすることで一般の方々が抱いている「上部消化管内視鏡検査はつらい」というイメージが払拭され、検査を受けることへの抵抗感が薄れて、安心して定期的に受診してもらえるようになれば、医療の在り方も変わってくるのだと思います。上に、受診者側のコツは述べましたが、検査をする側のコツというものもあります。ただ、それは患者さんのための説明方法など誰にでもできることだと思いますので、これもぜひ実践して欲しいと考えています。



※頼れるふくしまの医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。


プロフィール
西野 徳之 氏(にしの のりゆき)

役  職 (2016年8月1日現在)
 消化器センター長

専門分野
 消化器内視鏡、消化器(特に胆膵)、がん疫学、救急医療、
 画像伝送など

資 格 等
 日本消化器病学会指導医
 日本消化器内視鏡学会指導医
 日本胆道学会指導医
 (カテゴリー:内視鏡診断治療、経皮経肝的診断治療、癌薬物治療)
 日本医師会認知産業医

所属学会等
 日本脳神経外科学会
 日本定位放射線治療学会
 日本中性子捕捉療法学会




一般財団法人 脳神経疾患研究所
附属 総合南東北病院


 〒963-8052
 福島県郡山市八山田7丁目115
 TEL:024-934-5322(代表)
 URL:総合南東北病院ホームページ




◆用語解説◆

※1 内視鏡的逆行性胆管膵管造影
   (ERCP:Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography)

内視鏡を十二指腸まで挿入して、造影剤を胆管・膵管に注入し、造影する検査をいう。胆管結石、膵石、炎症性狭窄、胆管狭窄、膵管狭窄、形態の異常を調べたり、胆管・膵管組織採取、胆汁・膵液の採取など行なうことを目的とされる。また、近年治療目的で行うことも多くなっている。
本文に戻る↑

※2 dog’s ears sign

腹水の疑いを表すサインとして用いられてきたもので、犬の耳に見えることからこのように呼ばれている。
本文に戻る↑

※3 Naclerio’s V sign

下部縦隔胸膜と横隔膜側胸膜との間に気腫が存在するために両胸膜のためにV字型を示すこと
本文に戻る↑

※4 西野先生の上部消化管内視鏡検査の動画

URL:https://www.youtube.com/watch?v=eYg8qkB-H2I
本文に戻る↑


ページトップに戻る▲