(2015年5月1日掲載)
|
一般財団法人大原記念財団 大原綜合病院 小児科
|
地域の小児医療を支える体制
大原病院の小児科は常勤医師数が多く医療体制も整っていることから地域住民にとって心強い存在となっています、どのような診療が行われているのでしょうか
当科6名の常勤医師のうち私を含めた4名は各専門を持っていますので、小児医療の広範囲な分野に対してそれぞれが十分に力を発揮できるよう工夫しながら、地域の基幹病院として積極的な診療を行っています。
小児腎臓病の診療
小児の腎臓病について伺っていきます。まず、学校で行われる定期的な健康診断の項目の中には尿検査がありますが、どのような異常を疑うことがあるのでしょうか

「血尿を呈する疾患」
出典:一般財団法人大原記念財団 大原綜合病院
小児科 主任部長 鈴木 重雄氏
学校検尿には、「病気を無症状のうちに見つける」という重要な目的がありますが、小・中学生の場合、症状のない血尿や蛋白尿等の尿異常は、特に制限などせず、外来で経過をみている中で自然に正常化するなど治療の必要がないことがほとんどです。また、腎癌などの悪性疾患は、小児での発症頻度がかなり低いことなど、いわゆる泌尿器科的な疾患であることは、かなり稀です。そうした理由からも、尿異常を指摘された場合は、まず小児科を受診していただいた方が良いと思います。(「血尿を呈する疾患」参照)
小児の腎疾患のうち急性糸球体腎炎(以下:急性腎炎)はどのようなことから発症するケースがあるのでしょうか
小児の腎疾患には、腎炎やネフローゼ症候群という全身が浮腫んでしまうようなタイプ、それから他の全身疾患に伴う二次的な腎炎等があります。腎炎については、急性腎炎と慢性腎炎に大きく分けることができますが、小児の急性腎炎は溶血性連鎖球菌(以下、溶連菌)やある種のウイルス感染後に発病することがあります。溶連菌とは、昔から猩紅熱の原因菌として知られていますが、
溶連菌感染症の典型的な症状としては、発熱と咽喉の強い痛み、そして身体に紅い発疹が出ます。感染が疑われる場合は咽喉の拭い液を採取して行う迅速診断キットによる検査や細菌培養等の検査を行い、溶連菌感染と診断されると抗生物質を数日間服用して治療します。溶連菌に感染した患者さんは、その2週間後ぐらいに急性腎炎を発病することがあるため、必要に応じてその頃に尿検査を行っています。
小児急性腎炎の発症時に分かりやすい症状はあるのでしょうか、また、どのような経過をたどるのでしょうか
初期症状があっても軽微なことのほうが多いのですが、お子さんの様子を見ていて気付きやすい症状としては、まぶたの浮腫みがあります。顔の浮腫みは、身体の浮腫み、例えば足の浮腫みよりも周りの人が気付きやすいことから、お母さんたちが朝、起きた時のお子さんの顔付きの違いに気付いて来院されることがあります。その他には、何となく怠そうな感じがある(食欲不振、頭痛)、また、いわゆる血尿が出たことに驚いて来院されるケースもあります。血尿と言うと一般の皆さんは赤ワインのような色を想像されるかもしれませんが、赤っぽい色の場合はどちらかというと泌尿器科的な病気のことが多く、急性腎炎や慢性腎炎の場合は醤油やコーラを薄めたような黒っぽい色になります。何れにしても肉眼的に尿の色が異常の場合は、早めの受診が必要です。急性腎炎の基本治療は、いわゆる保存療法で、安静にして塩分と水分を制限する食事療法をある程度の期間、行います。急性腎炎とは腎臓が一時的に疲れてしまった状態なので、腎臓にあまり負担をかけないような治療をしていきます。このため軽い方は、安静にしているだけで回復することもあります。大多数は強力な薬剤を使用する積極的治療を行わなくても治癒します。そうした意味から急性腎炎と診断できた場合は、私たち医師としても安心できる部分があります。ごく稀な重症例で、高度な腎不全を呈して透析を必要とする方もいて注意が必要ですが、幸い、その他の大多数の患者さんにとっては、治る腎炎の代表と言えるのではないでしょうか。
一方で小児慢性腎炎についてはいかがでしょうか
慢性腎炎となると、急性腎炎のように安静にしているだけでは徐々に悪化の一途をたどる危険性があります。また、多くは治療の介入が必要です。ですから急性と慢性の鑑別はとても重要で、そこをしっかり分けて考える必要性があります。
「腎生検結果」
出典:一般財団法人大原記念財団 大原綜合病院
小児科 主任部長 鈴木 重雄氏
IgA腎症については、まだまだ不明な部分が多いことから治療法が確立されていないのですが、従来からの基本的な治療法としては次のような治療が行われています。まず、軽症例に対しては、血圧を下げる降圧薬を使用したりします。降圧薬の中には腎臓を保護したり尿蛋白を減らす働きを持つタイプがあります。それから、ある程度進行した症例に対しては、経口副腎皮質ステロイドホルモン剤(以下、ステロイド薬)や免疫抑制剤等の薬物療法を行い、通院で1~2年ぐらい続けていきます。腎炎について昔からのイメージが強いと、「腎炎=学校の体育は見学」と思われるかもしれませんが、必要以上の安静は骨を脆くしてしまうなどのデメリット面もありますので、今は考え方が変わってきています。
IgA腎症(※1)の予後については、どのようになっているのでしょうか
急性腎炎に関してはその大多数が治癒するとお話しましたが、慢性腎炎も軽症の場合には寛解に至ります。当院にも年に1~2回程度の外来通院で経過を診ているお子さんがたくさんいます。特に、小児IgA腎症に関しては治療に対する反応性が良く、それに加えてお子さんは生命力が強く細胞も若いためか、ある程度寛解に至ることが多いように感じています。ただ、それとは反対に成人の場合は慢性腎不全の要因になっています。進行性の経過をたどるIgA腎症の典型的な予後としては、大体10~20年の経過をとって徐々に進行、悪化していきます。小児の患者さんが急激に進行するケースは稀ですが、そこで進行性の経過をたどる方については、成人になって行く段階で内科の先生にしっかりとバトンタッチしながら長期に渡り経過を診ていく必要性があります。そのような患者さんに対して現段階では透析導入を完全に回避することはできませんが、学校検尿が始まる以前と比べると、今は明らかに透析導入に至る年齢が高くなっています。これは、治療法の進歩という面が当然ありますが、年に一度の学校や職場での健康診断(検尿)の重要性を示しているデータだと思います。皆様も、是非年に1度の健診を、しっかり受けて下さい。特に、血尿と蛋白尿、両方とも指摘された場合は、早めの受診をお勧めします。
小児ネフローゼ症候群
小児の腎臓病で比較的多い病気にはどのようなものがあるのでしょうか

「ネフローゼ症候群の組織型」
出典:一般財団法人大原記念財団 大原綜合病院
小児科 主任部長 鈴木 重雄氏
再発のしやすさについて分かっていることはあるのでしょうか
再発には体質のようなものも関係しているとは思いますが、その関連性は不明です。ただ、私が診療の中で感じていることは、患者さんのうち半数以上が何かしらのアレルギーを持ったお子さんであること、そして特に虫刺されの跡が腫れやすいお子さんが多いことです。現代のお子さんのうち何らかのアレルギー疾患を有する割合は全体の10%弱と言われていますので、その割合の高さがお分かりいただけると思います。虫刺されはネフローゼ症候群再発の誘因の一つとして重要です。実際に虫刺されの多い、初夏などに再発したりします。その他の再発の誘因としては風邪や疲労なども挙げられますが、これらの予防は現実的ではありませんね。ただ虫刺されは、ある程度予防できるので、例えば草むらに行かないとか、虫除けスプレーを使用するとかなどの指導をご家族に行ったりしています。長期入院が必要になることもあると聞きますがどのぐらいの期間なのでしょうか、また入院生活による患者さんの不安に対して何か取り組まれていることはございますか
入院期間は治療の内容や反応性によって異なりますが、尿蛋白が消えるまでは最低限入院していただいています。それも踏まえて平均で2週間弱ぐらいから、許される場合は1ヵ月前後お願いすることもあります。その間、特に初発の場合は、浮腫みが取れるまでの10日前後は安静が必要で、その時期が過ぎても他の感染症の感染予防のためにも病院内を歩き回るようなことは避けていただいています。
お子さんの病気となるとご家族の心配も大きいと思います、先生方は説明の際にどのようなことを心掛けていらっしゃるのでしょうか
私は、お子さんの状態や病気について十分にご説明することを第一に考えています。そこでは医療用語が増えてしまわないように気を付けながら、出来るだけ分かりやすい言葉で話すことを心掛けています。それから、どうしても私たち医師に対しては聞き難いこともあると思いますので、当科では看護師やスタッフに対して気軽に声を掛けていただき、そこできちんと応えられるような環境作りを行っています。2017年後半に新築移転開院予定の新病院では相談室等のスペースを広く確保する予定ですので、さらに充実した環境の中でお応えしていきたいと思っています。また、薬を飲ませることが大変、大泣きして拒否するお子さんが時におられます。このような時には、まずご家族に対してその薬剤の必要性を十分にお話する必要があります。また、お子さんに処方した薬を、どんな味なのか、それほど不味くないことなどを知ってもらうために、ご家族に味見をしてもらっています。お子さんに飲ませるもの、食べさせるものの味を知らないのではマズイですよね。そうした薬剤に係ることについては、腎疾患の治療ではステロイド薬を使用する割合が多いことから、その説明もしっかり行う必要があると考えています。
ステロイド薬については不安視する声もあるのではないかと思いますが
確かに一般的にステロイドという名前を聞いただけで、全て拒否される方が時におられるのも事実です。このことは薬剤メリットよりもデメリットに注目が集まりやすい傾向があるからではないでしょうか。そこには、インターネットの普及による情報の引き出しやすさも影響していると思います。今は誰でも簡単に医療に係る情報を得ることができる反面、一般の方が正しい情報を選別することは難しい状況にあるとも言えます。特に薬剤の副作用については数多く掲載されているようですが、薬剤本来の作用、メリット、そしてその薬剤を使用しなかった場合のデメリットに関してまでは書いてあることは少なく、少人数の方に出た副作用が全ての方に共通すると認識できるような表現も見受けられます。そうした面では、ご家族に対して不確かな情報に左右されないようにお話をすることもあります。実際のところ、特にネフローゼ症候群や腎炎に関してステロイド薬は特効薬に近いものです。そして私たちは、その主作用を発現させることを目的として使用しています。確かに、副作用として成長抑制や肥満等の心配もあります。特にネフローゼ症候群のうち1割ぐらいのお子さんに頻回再発型・ステロイド依存性の方がいて、ステロイド薬の減量や中止により再発してしまうため、なかなかステロイド薬を減らせず、結果として副作用が強く出てしまう方もいます。そうしたお子さんに対しては、近年は薬の進歩により、いろいろな免疫抑制剤や生物学的製剤等の有効な薬剤が使用できるようになったため、以前と比べて副作用に関する問題は格段に減ってきています。
ステロイド薬そのものも、如何に副作用が出ないように、そして最大の効果が出るように使用していくかが重要です。例えば、なるべく早い時期に連日投与から隔日投与にしたり、出来るだけ短期間の使用にするなど、十分に注意をしながら治療を行っています。このように患者さんのご家族には、薬剤によるメリットとデメリットの両面を十分に説明した上で治療するように心がけています。
連携と院外での活動
貴小児科ではどのようにして他科との連携を図られているのでしょうか、また、院外では他病院と協力した活動もされているそうですね
院外での活動については、当科は1型糖尿病のお子さんの診療をしていることから、日本糖尿病協会の後援で毎年開催されている、インスリン治療中の小・中学生を対象にした「小児糖尿病サマーキャンプ(※2)」の福島県での開催に協力しています。日本人に多い2型糖尿病の罹患数に比べると、1型の患者さんは圧倒的に少なく、一般の方達への認知度も低いかと思います。1型糖尿病の方は、ブドウ糖というエネルギーを体の中、細胞の中に入れるために、食事の前に必ずインスリンを注射する必要があります。また、低血糖で意識を失ったりすることもあり、その予防としてブドウ糖の錠剤やゼリーを食べることも必要です。そうしたことから同じ病気を持つお子さん同士が交流を図ったり、糖尿病の自己管理に必要な知識やインスリン自己注射の手技等を再教育する場として、サマーキャンプを開催しています。参加しているお子さんたちはインスリン注射が必要なこと以外は他のお子さんと何ら変わりなく生活できますので、私たち医師もみなさんと一緒になって遊んでいるようなところもあります。当県でのキャンプは、毎年協力病院が持ち回りで担当しながら2泊3日程度のプログラムで開催しており、今年で第14回目となります。今回は当院が担当なので、小児病棟のスタッフが中心となって、病院全体の協力を得ながら、忙しく準備を進めているところです。
小児科の魅力
先生はどのようなところに魅力を感じて小児科医を選択されたのでしょうか

お子さんは成長する年代なので、自ら病気を“治す力”が強い時期だと思います。細胞自体が若いということなんだと思いますが、その力をうまく引き出してあげることが、小児科医の役割なのかもしれません。治っていくお子さんを診る楽しさを研修医や学生のみなさんにも実感して欲しいと思います。そして、そうした患者さんとの出逢いがきっかけとなり、小児科医の道を選択していただければ良いですね。
地域の小児医療発展に向けて
地域そして福島県の小児医療を支えるために、先生はどのようなことをお考えでしょうか

※頼れるふくしまの医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。
プロフィール
鈴木 重雄氏 (すずき しげお)

役 職 (2015年5月1日現在)
一般財団法人大原記念財団 大原綜合病院
小児科 主任部長
(福島県立医科大学臨床教授 同客員講師)
卒業大学
福島県立医科大学(1985年)
得意分野・専門
一般小児科、小児腎臓病、アレルギー、内分泌など
資 格 等
医学博士
日本小児科学会専門医
日本腎臓学会認定指導医
日本アレルギー学会専門医
所属学会
日本小児科学会
日本腎臓学会
日本アレルギー学会
日本小児腎臓病学会
日本小児アレルギー学会
日本小児腎不全学会
日本小児内分泌学会
経 歴
1985年 福島県立医科大学 卒業
1989年 福島県立医科大学大学院 卒業、公立高畠病院小児科
1990年 竹田綜合病院小児科
1993年 済生会福島病院小児科、福島赤十字病院小児科
1994年 福島県立医科大学小児科
1995年 福島県立医科大学小児科助手
2001年 福島県立医科大学小児科学内講師
2003年 公立岩瀬病院小児科
2004年 公立藤田総合病院小児科
2007年 大原綜合病院

大原綜合病院
〒960-8611
福島県福島市大町6-11
TEL:024-526-0300(代表)
FAX:024-526-0342
URL:大原綜合病院ホームページ
|